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東北で誕生した先端農業を世界へ-レタスが見る未来

人類の1万年の農業の歴史のなかで、農作物の安定生産はつねに課題でした。

そもそも「お天気次第」の農業生産を計画通りに行うこと自体が冒険的なこと。天候の影響を受けない室内型の植物工場は数十年にわたり研究が進められていますが、その大半は実験レベルに留まっているのが実情です。ハードウェアだけを作ったとしてもソフトウェアがなければコンピューターが動かないように、植物栽培のノウハウとそれを工業的に実現する技術力とが噛み合わなければ、植物工場も動かないのです。

日本GEと、野菜栽培を専門とするベンチャー企業、みらいは共同でLED照明による完全人工光型の植物工場を開発し、年間を通して計画的かつ安定的に野菜を生産することを可能にしました。7月2日にベールを脱いだ写真の工場は、LED照明を全面採用した工場としては世界最大規模で、毎日1万株のレタスが天候に関係なく一定品質で収穫されます。

この植物工場があるのは宮城県多賀城市、東日本大震災のあと新産業創出を目指す企業が入居する施設として開設された「みやぎ復興パーク」内に建設したもの。みらいが主体となって経済産業省の「IT融合による新産業創出のための研究開発事業」の採択を受け、約1年にわたるGEとの共同実証実験を経て、先端農業として完成させました。

「アルミフレームとLEDランプで野菜ができちゃうなんて、面白いでしょう?」と笑うのは、みらいの代表であり植物生理学専門家の嶋村茂治(しまむらしげはる)氏。「私は植物の生育を専門とする“栽培屋”。どうすれば良い野菜を作ることができるか、その生物学的な知識がありました。でもハードウェアを作ることは専門外」と言います。みらいとGEの出会いは2011年。東北地方の復興支援のために様々な取り組みを推進し、そのひとつとして先端農業法の確立にチャレンジしたいと考えていたGEはみらい社を訪ね、現地の雇用創出に繋げるためにも一緒に東北で新産業を完成させないか、と提案しました。「声をかけてくれたときは本当に嬉しくて、その場で“是非やりましょう”と即答しました」と嶋村氏は振り返ります。

風雨の影響を受けずのびのびと育つレタス

ふつう植物は、朝日が昇り、お昼に日照が強くなって夕方日が沈むという昼夜のサイクルを感じています。このサイクルを人工的に早めることで、一日がたくさん訪れている状態になり、生育が促進されます。「昼はもちろん光合成をしているわけですが、夜は夜で、呼吸を行っているんですね。単に昼と夜を与えるよりも、光や環境をうまくコントロールしながら与えて最良な呼吸と光合成を行わせてあげることで、植物はより大きな光の効果を受け止めたり、より大きな休息の効果を得たることができるんですよ」と言います。

GEライティングは野菜たちが必要とする絶妙な光を再現し、野菜にストレスになる熱発生を最小限にする植物育成用LED照明の開発に取り組みました。GEライティング・ジャパンの責任者、木村朋聡(きむらともあき)は「GEの海外の照明開発チームも、この夢のある仕事に、熱心に取り組んでくれました。点光源のLEDは広い範囲を万遍なく均一に照らすのが難しい、というハードルを見事に越えてくれました」と語ります。「植物工場内は湿度が高いので、器具内の湿度を最適化できるよう調整してあります。また、器具を薄くすることにもこだわりました。栽培ベッドの段数を増やせば面積あたりの生産性が飛躍的に向上しますからね」と言うとおり、この工場は露地栽培のなんと100倍もの生産能力を誇ります。

それだけでなく、この工場には驚異とも言える各種記録が。

植物栽培用LEDの開発により、蛍光灯を使った場合に比べ、消費電力を40%削減しつつ収穫量は50%増加することに成功。植物にとって最良な光合成と呼吸、休息のおかげで、生育スピードは露地栽培の2.5倍以上。常に最適な環境に管理されているおかげで、同種レタスの収穫時廃棄率が約50%であるのに対しここでは10%と、品質も確保されます。さらに、栽培のための水使用量は露地栽培の100分の1。水不足や塩害、極度の寒冷気候に悩まされている国々でも農業自給ソリューションになるとして、すでに海外からも多数の問い合わせを受けています。

2011年3月に日本を襲った東北大震災と津波の被災地で誕生した、
世界最大規模のLED人工光型植物工場

1985年、まだ中学生だった嶋村氏はつくば万博の野菜工場のパビリオンを訪れ「へぇ、こんな部屋のなかで野菜を育てる技術があるんだ」と感銘を受けまいした。やがて高校2年になり進路を考えたとき、その光景がふと頭によみがえった嶋村氏。調べてみたところ研究は行われているものの、実用はおろか経済性の観点からも「産業化はほど遠い」状況にあることを知りました。「自分が一生をかけて頑張って実現してみたい。実現すれば、人類のために役に立てるかもしれない」と、この道を志す決意を固め、以来、先端農業実現に向けまっしぐらに走ってきました。

写真:嶋村氏 植物工場の実現を仕事にしようと決意したのは高校2年生の時だった

イノベーションで世界の困難な課題解決を目指すGEも、人類の役に立ちたいという情熱はみらいと同じ。両社は「いよいよ本当の意味で農業の工業化がスタートする瞬間がきた」ことを実感しています。すでに香港やロシア極東地区でも導入を進めているこの植物工場。震災を経験した東北地方で生まれた新産業、「LED植物工場」という先端農業が世界へと展開をはじめ、世界の食糧問題の解決に挑もうとしています。

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