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水素エネルギーと燃料電池が拓く、日本の未来(前編)

原子番号1-水素。元素のなかで「もっとも軽い」ものでありながらも、日本の未来のために、その役割は決して軽くはなさそうです。5月に日本GEが開催した日本再興を考えるイベント「第2回 Japan is Back Forum」で焦点を当てたのは、水素エネルギー。ゲストには、東京工業大学特命教授であり、資源エネルギー庁「水素・燃料電池戦略協議会」座長 を務める柏木孝夫特命教授、そして、水素燃料電池を用いたFCV(Fuel Cell Vehicle)開発で世界をリードするトヨタ自動車の技術統括部主査、広瀬雄彦氏を迎えました。

水素社会がもたらすパラダイムシフト

化石燃料依存が増しているうえ、石油1ガロンあたりの価格は世界一の高値で輸入している日本。エネルギー課題が厳しさを増すなかで今年4月に政府が発表したエネルギー基本計画には「水素社会の実現」の文字が。環境技術を強みとするEUやシェール革命真っ只中の米国でも水素エネルギー推進プログラムがスタートしているほか、韓国も2020年までに500カ所(*1)の水素ステーション(ガソリンスタンドに代わるもの)設置を計画するなど、世界各国で、水素という新エネルギーへの投資が高まっています。

なぜ水素がこれほど注目されているのか。

水素はCO2を排出しない次世代エネルギー源であるだけでなく「水素社会」という言葉があるように、社会システム全体を変えるほどのインパクトを持ち得ます。こと日本にとっては、水素を巡る技術開発や社会システムを確立することで、燃料資源輸入依存からの脱却のチャンス。それだけでなく、日本の水素燃料電池分野の特許出願件数は諸外国の5倍以上。世界の巨大市場で競争力を発揮し、21世紀における日本の経済成長のドライバーにもなり得るのです。

水素は単体としては自然界に存在しないため人為的に抽出・製造することが必要。そこに続く「製造→輸送・貯蔵→利用」というエネルギーのサプライチェーンを確立しなければ、コスト低下と普及は望めません。今こそ産業領域を越えて産官学が連携し、横断的に技術開発やビジネスモデル構築を進めなければ、個々の技術はスゴくても国際市場のビジネスでは負けを見ることになりかねません。

出典:経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会(第1回)
配布資料 資料4 水素・燃料電池について

水素エネルギーのメリットと課題

水素が自然界にほぼ無尽蔵に存在しています。さらに、水素と酸素の化学反応で水を作りながら電気を取り出すことができるので発電時のロスが生じにくいほか、利用段階でもCO2を排出しないなど、数多くのメリットが。また、風力や太陽光を用いるため「発電力が不安定」という弱点を持つ再生可能エネルギーと組み合わせる場合、高出力時の余剰電力を水電解して水素を製造、貯蔵しておけば、低出力時には燃料電池として補完的に電力供給することができます。

政府のエネルギー基本計画では、分散型電源を用いて電源多様化を進めることとしています。「エネファーム」として知られるように、燃料電池は家庭に備え付けることができ、柏木教授は「省エネ・発電の両方を行うゼロエネルギーハウスの実現も可能」と言います。同教授は、分散型電源については「将来的には電力利用の約3割、金額にして5兆円を上回る規模に達する」と見込んでます。

すでに欧州や米国ではガスタービンを用いた水素燃料含有率50%以上を誇る発電システムが稼働中。
大規模かつ高効率な発電で水素エネルギーコストを圧倒的に下げることが可能。
(写真はGE製の6B Gas Turbine)

しかし、水素エネルギーの利用モデルは分散型電源だけではありません。

大規模発電所のガスタービンを用いた発電においても超高効率・高出力の発電システム構築が可能で、これは普及のための決め手でもある「水素エネルギーコスト」の大幅低減に寄与します。GEは過去数十年にわたり水素活用のための研究開発を行っており、すでに欧州や米国ではガスタービンを用いたコージェネレーション・プラントで、水素燃料含有率50%以上を誇る発電システムを稼働させています。

そして先日、トヨタ自動車は先日水素エネルギーを用いた燃料電池車(FCV)を2014年度中に世界に先駆けて日本で発売することを発表。「航続距離は約700km、電気自動車(EV)で言う充電にあたる水素充填にかかる時間はたったの3分間」(広瀬氏)と、電気自動車の課題を克服し、ガソリン車並みの性能と使い勝手を実現したものになります。来年夏ごろには欧米でも発売する計画であり、トヨタ自動車は世界にまったく新しい市場を拓いていきます。

日本GE主催「Japan is Backフォーラム」より。左から:
東京工業大学特命教授 資源エネルギー庁「水素・燃料電池戦略協議会」座長 柏木孝夫氏
トヨタ自動車 技術統括部 主査 広瀬雄彦氏
GEパワー&ウォーター 北アジア 電力事業本部長 堀江 渉

最大の課題はコスト。水素の製造、輸送・貯蔵方法については研究開発が各所で進んでいるものの、まだ体系的に確立されたものはありません。ガソリンを前提とした日本の規制のもとでFCVの水素ステーションを設置しようとすると、設置コストは欧米の5倍(*2)にものぼります。普及と技術開発を進めるためには『水素燃料コストをいかに下げるか』が大命題であり、コストを下げるためには世の中全体のしくみを新しいものにしなければなりません。

*1「水素・燃料電池について」(経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会資料より)
*2「水素・燃料電池について」(経済産業省 総合資源エネルギー調査会資料より)

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