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水素エネルギーと燃料電池が拓く、日本の未来(後編)

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水素エネルギー普及のため、どうしても超えなければならない課題

ひとつめの課題は、エネルギーの効率化→利益の確保→ユーザーに還元して利用を促進、という流れを確立すること。電力・ガスが全面自由化された暁には、企業はその両方を一元提供することで利益を担保し、より安価なエネルギーを生活者に提供することが可能に。柏木教授は「ガス、電気、通信サービスをワンストップで提供する企業も出てくるだろう」と言います。

ふたつめは、社会全体としてコストを受け入れるというもの。トヨタ自動車の広瀬氏は「新しいシステムには新しいインフラが必要であり、それには新しい投資がされなければならない」と言います。まさに産官学民の社会全体が連携して、水素を低コストで活用できる社会を実現するための「エネルギーのグランド・デザイン」が不可欠。サプライチェーンの各シーンにおけるイノベーションはもちろんのこと、規制改革や開発投資促進のための仕組み、さらに需要を喚起するためには民に対する理解促進も必要です。

水素ステーションの例のように、まったく新しい仕組みを古い規制で縛るべきではありません。制度改革、助成金や減税を用いた開発投資振興など行政側のバックアップ、さらに政府調達といったかたちでの政府による先端技術投資も期待されています。

「FCVを買うことは未来へのタイムマシーンを買うこと。そういった人たちのためには高速道路料金を無料にするなど、政策的な誘導も必要」と広瀬氏は言います。また、工場をはじめとする大口需要家のニーズに応えるサービス・ラインナップや価格体系も重要。これには、高効率で既存の都市ガスのインフラを利用できるSOFC(固定酸化物形燃料電池)のような技術の実用化が待たれます。こうして需要が拡大すればスケールメリットが働き、コストダウン→ニーズのさらなる拡大というプラスの循環を埋めるはずです。

「技術で勝って、ビジネスで負ける」に陥らないために

水素は、製鉄工程で副次的に生産したり化石燃料を改質して取り出すことができるため、日本はすでに既存産業において余剰水素を多く有しています。将来、世界で水素燃料が台頭すれば、液化技術やその輸送技術にもニーズが集まります。これも、エネルギー輸入依存国だった日本が培ってきたLNGタンカー造船技術など様々な運輸技術を世界に売り出すチャンスになります。

広瀬氏は「トヨタは燃料電池車の実現を急いで進めます。社会全体の様々な産業分野において、エネルギーの製造・調達から自動車の製造、利用に至るまでバリューチェーンの全プロセスにおいて、日本がイニシアチブをとることを目指していこうではありませんか」と語りました。

水素エネルギーを巡っては、すでに世界に誇る技術を数多く持つ日本。「技術で勝って、ビジネスで負ける」という羽目を見ないよう、水素を中核とした国レベルの新しい社会基盤を築くためには、産官学民がそれぞれの役割を明確化し、共通のゴール目標に向けて疾走しなければなりません。同時に、イノベーション加速のためには、海外のノウハウや技術も賢く取り入れることが必要です。水素社会のもうひとつの側面、それはこれまでの日本的なやり方から、真の意味で脱却するということなのかもしれません。