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GE副会長 ベス・コムストック が挙げる、企業がスピード・スマートさ・適応力を向上させる6つの方法

ある意思決定のために十分な情報を収集し終える頃には「時すでに遅し」。この数十年、企業経営者たちが繰り返し直面してきた問題ですが、いま世界をとりまくスピードや変動性は、この状況を常態化しつつあります。

そんな状況下で、組織のあり方や働き方を考える上でキーワードとなりつつあるのが「コラボレーション」や「創発」といった言葉。コラボレーションを通じて多様な要素が作用しあうことで予想もしていなかった結果や可能性が生まれる、という「創発的アプローチ」が着目されるとともに、意思決定方法やそのための支援ツールも変化を遂げてきています。そこで今回は、GEの副会長ベス・コムストックが考える、新時代の創生期にあるべき組織のあり方をご紹介ご紹介します。GEも取り組んでいる、企業が課題認識とその解決策を市場のスピードに合わせて見出すための6つの方法を紹介しましょう。

ベス・コムストック GE副会長

1. 情報の流れを整理して、ヒエラルキーや官僚主義を廃止する

適応力のある企業文化の構築は、徹底してオープンなコミュニケーションから始まります。社員に今起きていることに関するリアルタイムな情報へのアクセスや、それを共有し行動に移す許可を付与して初めて、スタートアップ企業のようなスピードや弾力性を実現することができます。「自然」のあり方は、この法則を分かりやすく示しています。例えば、アリが残すフェロモン=道しるべを消すと、アリのコミュニティは道に迷ってしまいます。ヒトの神経系を遮断すれば、混乱や麻痺が生じます。

自然の仕組みと違って、人間社会にはコミュニケーション経路を自動修復するメカニズムがありません。コミュニケーションを繋げる責任と作業は、企業文化や信念の形成を担うすべての人にのしかかってきます。

GEの経営に携わるなかで、私は同僚から定期的に“私が聞きたくないであろうこと”を聞かせてもらっています。そして、その解決のための行動を起こし、どう行動を変えたかをフィードバックします。新たな情報や視点から学ぶことができるだけでなく、これには、オープンな企業文化の形成を促すうえでも意義があります。

透明性やスタートアップの組織と対照的なのが官僚主義(bureaucracy)。この言葉自体、いにしえの情報技術が生み出した遺物です。bureauとは文机のことで、情報の物理的な格納容器であり、一箇所に留め置くためのもの。その周りには権力や人がぞくぞくと集まってきます。まるで細胞を取り囲む脂肪さながら。官僚主義は情報が少ない時代には必要なものでした。しかし、身の回りのいたるところに情報が流れる現在の世界ではマイナス材料でしかありません。

2. 個人に権限を持たせる

これは真に権限を付与するということです。組織内の正式な肩書きがどのようなものであれ、他者をコントロールすることで成果をコントロールできるという幻想から、誰もが目を覚まさねばなりません。変革がスピードを増すのに伴い、私たちは皆、指揮統制のヒエラルキーの一員ではなく「コラボレ-ター」になる必要に迫られています。情報依存型のネットワークで、少数ノード(結節点)にコマンドが集中することは、失敗のリスクに晒すようなものです。

新たな時代の創生期とも言える今、組織にとって最良なのは、自然の創生システムに倣って意思決定プロセスをネットワーク内で広範に分散させること。つまり個々の「細胞」に権限を与え、シグナルを中継したり、現地の条件に適切に対処できるようにするのです。

GEにとってこれは人材の再配置を意味します。具体的には、どこで事業を行うにしろ、世界中の市場の”現場”により多くの人材を配置します。また、あらゆるコミュニケーションツールを駆使してインテリジェンスが出会う新たなノード(結節点)を作り出し、新たなフィードバックの輪を築き、現地でのより迅速な意思決定を実現できるよう正式に権限を付与します。

こうした分散型管理は、すべての変動可能性を事前に把握したい人にとっては不安なことかもしれません。しかし私の知る限り、この創発的アプローチがチームにもたらす異次元の即応力やスピード感をいったん目の当たりにすれば、官僚的なアプローチに戻る人はまずいません。

数学者のブノワ・マンデルブロにちなんで名付けられたマンデルブロ・フラクタルの一例
創発の特徴を表す一例で、シンプルなルールを利用して複雑な予期せぬパターンを作り上げている
(画像:Getty Images)

3. 長い規則を、すぐれたMOに置き換える

ここでいうMOは“modus operandi(ラテン語で「仕事のやりかた」の意)”、つまり業務手法だけを指すわけではありません。「ミッションの目的(mission objective)」や「発想の方向づけ(mindset orientation)」といった意味も含みます。優れたMOとは、組織のビジョンと個人またはチームの直接的かつ戦術的な目的とをつなぐ、直感的な思考習慣です。習慣的な面も直感的な面もあり、使命とマインドセットの中間あたりに位置します。

MOは組織内で創造力を発揮させる強力なツールとなり得ます。熟練の感覚とスピーディーでしなやかな実行力を兼ね備えているからです。考え抜かれたMOを持つ経営者は、組織のスキルと資産をこれまでにない方法で、新たに組み合わせるコツを掴めます。これはジャズの即興演奏で音を直感的に組み合わせるのと同じ要領です。これらの意思決定には、確立した規則をいわば筋肉に記憶させる方法を用いる部分と、その瞬間の可能性や要求に合わせ応える部分とがあります。

私はいま、次のような方法での対処を新たに習慣化しています。プロジェクトの最初の段階で当面の目標を描き、運営上の一連の規則や明確な制約を示す一方で、把握できることには限界があるということを認識します。そして、チームに自由と柔軟さを受け入れることを奨励し、彼らが独自のやり方で最終成果にたどり着けるようにしています。こうして導く成果はたいてい期待や想像を上回るもので、時代の過渡期がもつスピードや複雑さに、よりふさわしい環境だと言えます。

4. 「過渡期」を生き抜くことに慣れる

既存の組織や手法はデジタル情報の流れに侵食されつつあります。代替策は急速に生み出されてはいるものの十分なスケールには至っていません。新旧を問わず全ての組織はいま「過渡期」にあり、こうした時期こそ、成功するための方法を学ぶ必要があります。過渡期を生き抜く方法を身につけるには、創発の時代にふさわしい「発想の転換」の徹底が求められます。これは、無難な策または知識の蓄積をもって対応できるとか、直面する可能性や問題への対処に十分な手腕を備えていると過信するような考えを、一切捨て去ることを意味します。

5. 新たなフィードバックループを始動する

フィードバックを恐れる必要はありません。ただし、適切なフィードバックであることを確認する必要はあります。

健全で順応力のある組織はフィードバックを寛大に受け止めます。組織内に流れるシグナルを増幅させるだけでなく、フィードバックを修正したり、その後の行動をさらに改めたりもします。官僚主義や自分の考えばかりを主張する経営者によって情報の流れが滞る企業では、建設的なフィードバックは実現できません。適応力のある組織を目指すには、「ネガティブな」フィードバックを許容できるよう、一定の条件を設定しておく必要があります。

はじめは、行動を改めさせるようなネガティブなフィードバックを不愉快に感じるかもしれません。好ましくない情報だけでなく、ある程度の失敗も許容しなければなりません。メディア評論家のクレイ・シャーキー氏の言葉を借りれば、「失敗が選択肢にない」企業文化を「失敗が問題とならない」企業文化へ変えていくこと。失敗が、変化に適合しようとして生じた悪意のない結果であるなら、それは正に組織が健全であることの現れです。弾力性や回復力を養う過程で、ある程度の失敗はつきもの。フィードバックは組織の「免疫反応」が生み出しているのです。

GEは昨年、社員に対する年に1度の業績評価を廃し、社員一人ひとりが関わりのあるすべての社員とフィードバックをやりとりできるシステムを導入しました。携帯端末からも入力可能でリアルタイムに利用できるので、例えば、私が行動を改めるのに役立つフィードバックを、社員なら誰でも私に送ることができます。その後、目指した成果を達成できたかどうかや、その理由について尋ねることもできます。重大なフィードバックに際しては、どこからどのように変革を起こせばよいかを示すこともできます。

6. 「Minds and Machines(人と機械の融合)」のパワーを活用する

シミュレーションシステム(多くは新興の企業が手がけています)はより高度になり、リアルタイムに情報を流せるほどになっています。詳細なシミュレーションが金融市場の変化を予想したり、病気の蔓延の予測に役立てられています。コンピューターゲームが自律的にシナリオ開発できる領域を内包し、ゲーム製作者でさえもその詳細や範囲を把握しきれないような時代です。便利なコンピューターモデルの活用が企業の次のステップになるのも自然なことです。

例えばGEの技術者たちは、デジタル・ツインと呼ぶシミュレーション「エンジン」を構築中です。言わば、ジェット・エンジン、機関車、ガスタービン、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)など、当社のあらゆる主要な技術システムのデジタルレプリカです。デジタル・ツインはどれも、物理世界に存在する特定のマシンとペアになっていて、例えば、あるジェット・エンジンのデジタル・ツインは、設計、製造方法や製造場所、使用場所、使用履歴、現在の状態に関する情報を内蔵しています。デジタル・ツインがあれば、個々のパーツが故障しそうな時期や、交換が必要な時期を前もって教えてくれるので、修理や機能停止に費やされるコストや時間を省くことができ、大変便利です。

技術システムにおける人工知能(AI)のこうした活用効果を踏まえ、組織への活用法もちょっと想像してみましょう。組織における一定の部門のデジタル・ツインはすでに構築可能です。したがって、多くの単調作業や試行錯誤、経営のムダをなくすことも可能です。

ウガンダ政府はAIと予測分析とを組み合わせて、ゾウを密猟者から守るためのパトロールの配置を最適化するのに活用しています。米国では、企業がAIを利用して雇用や社員評価のプロセスを合理化していますし、広告代理店にいたっては、最も多くの人に影響を与えられると判明したテーマに沿った作品制作や広告露出を実現するために利用したりしています。どこに行ってもパターンは同じで、反復作業は不要になるので、ヒトは仕事を仕上げるうえで必要な技巧や創造力、戦略的思考を提供することに専念できます。

企業にとっても個々の社員にとっても、優れたMOと強力なAIを組み合わせることは、最初は不可能なことに思えるかもしれません。しかし、そのうち必然的なものになり、最終的には揺るぎない存在として確立されるようになるでしょう。これからの時代、企業は「壊滅的状況や緊急事態に陥り必要に迫られる」よりも早期に、一貫して自発的に、問題解決策を見出すことができるようになるでしょう。

しかし、こうした新たなツールを手にしても、創発的な組織にはやはり適切な人材を雇用し、目的や価値、信念を定義し、インスピレーションや変革の源泉を提供・示唆するリーダーが必要です。アリのコミュニティや脳細胞に明確なビジョンを持ったリーダーは必要ありませんが、ヒトの組織には、どんなときもリーダーが欠かせないのです。

*この記事は米Medium誌に掲載したベス・コムストックの寄稿記事をベースにしています。ここでの見解は、ベス・コムストック個人によるものです。