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「コラボレーション・ロボット」市場は2020年に3000億円規模へ。普及のための正しい“リスク査定”とは

先月、安倍晋三首相がニューヨークで「少子高齢化や人口減少はむしろ追い風」と発言したのも記憶に新しいところ。生産性向上の必要性に迫られることでロボットや人工知能(AI)を活用しようという機運が高まることが、その理由として挙げられました。昨年設立された「ロボット革命イニシアティブ協議会」でも、生産性の向上に繋がる「ロボットの活用」に向けた様々な取り組みが始まっています。

世界有数のロボット製造メーカーがひしめくロボット大国・日本を横目に、たとえば米国も「国家ロボットイニシアティブ」のもとで研究開発を強化中。IoT技術活用の拡がりとともに、IoT時代の新たな生産プロセスやサプライチェーンにおけるロボット活用も急速に進みそうです。

なかでも大きな可能性を秘めているのが、5年ほど前から拡がりつつある「コラボレーション・ロボット」。この新しいタイプのロボット技術の普及には、しかるべきリスク管理とそのガイドラインの標準化も必要です。今日は、カナダのケベック・シティを拠点に新鋭ロボットを創りだしているRobotig社の若き社長、サミュエル・バウチャード氏と同社のマシュー・バレット氏の視点をご紹介します。

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SF映画の世界では、狂気じみたロボットが人間を駆逐する・・・といったシナリオが流行中。「ロボットの進歩や普及は人間の仕事をどう変えるか」「ロボットを投入すべき場所とはどこか」といった点へ疑念が湧きあがるのは健全なことです。ただ、今日のロボットはというと、工場の作業現場などで人間と安全な距離を保ち、隔離されて稼働しているケースがほとんどです。

過去30年に利用されたロボットの数は140万台。このうち、致命的な事故が発生したのは27件。最近の例では、昨年ドイツの自動車工場で起きた死亡事故が挙げられます。事故の回避は一朝一夕に実践できるものではありません。これまで、産業用ロボットのユーザー企業は、安全に対する厳重なガイドラインとトレーニングを施し、人とロボットの位置を物理的に分離することを徹底してきました。しかし新タイプのコラボレーション・ロボット(コボット)は、安全柵のような設備を追加することなく、人と並んで働くことができるため、さまざまな産業で採用が進んでいます

このところ急速に拡大中のコボット市場はまるでロケットの発射台に着いたかのようで、バークレイズ社のエクイティ・リサーチ・チームによれば、2015年に1億2,000万ドルだったその規模は2020年までに31億ドルに拡大する見込みとのこと。

あらゆる産業領域に受け入れられ、適用されるコボット。しかし、安全設備に頼らずに人と至近距離で働くコボットにはどのようなリスクがあるのでしょう?また、事故を減らすにはどうしたらよいのでしょう?

コラボレーションのために求められる仕様
コボットが登場してからすでに5年以上が経過しています。コボットは、その動力量や力に限界値が設定されており、センサーを使って彼らが身を置く環境を理解できるように作られています。従来型の、何が起きようとプログラム通りに動こうとするロボットとは異なり、コボットは周りの環境に敏感で、普段とは異なる力が加わったことを感知すると動きを止めます。

そんなコボットの利用には、安全面以外にも多くのメリットが。プログラミングが簡単(手の動きを使うこともでき、ユーザーフレンドリーなインターフェースを採用)なうえに設置面積は小さく、安全設備を買い足す必要もありません。バークレイズ社によるとコボットの平均単価は24,000ドルで、世界のものづくりの70%を占める中小企業でも十分に手が届く価格帯です。

しかし、急速に普及していく一方で、コボットの利用に関する規制基準は、今年1月に国際的な技術仕様書が発表されるまで存在しませんでした。この仕様書には人体のあらゆる箇所の痛みの限界値がリスト化され、このデータをコボットの設定に反映させることになっています。

どこまでが許容範囲なリスクなのか?
この基準では、具体的な個々の適用例に対してリスク査定を行う必要があることを明確に示しています。たとえば、ロボットが何か柔らかいものを運んでいるとして、その物体が人と接触した場合、ロボットは異常な力が加わった事を感知して休止するので危害を加えることはありません。しかし、この柔らかい物体が先のとがった金属片に変わった途端、どうでしょう?結果は大きく異なってきます。

こうした個々の状況があることから、ロボットやロボットセルの安全性のアセスメントは個別にではなく、全体のオペレーションのなかでどのように動作して成果を出しているかに基づいて下す必要があります。ロボットに設定する動作スピードや力の限界値をどのように設定するかが、その状況が安全かそうでないかを決定づけます。

リスク査定は、5つのステップの反復で構成されます。まず最初に、ロボットの動作とオペレーションを分析し、そのリスク源を特定します。次に、ケガの重大性(S)、危険にさらされる頻度(F)、危険を避けうる可能性(P)といった異なる基準を用いてリスクを推定し、要求性能レベル(PLr)を決定します。その結果を「超ハイリスク」から「無視できるリスク」の範囲でランク分け・査定し、そのリスクが許容範囲かどうかを確認します。許容範囲であれば動作・適用に変更は加えませんが、許容範囲でなければリスク低減プロセスを実施する必要があります。

リスク査定では、あらゆる危険をすべて避けようという考え方ではなく、あるひとつのリスクを選び出します。たとえば、指の爪の損傷を許容のラインとして選び出したのであれば、それよりもっと深刻なケガは避けられる、というように査定します。

なお、この新基準は今のところ技術仕様書に過ぎず、その数値もガイドラインにすぎません。収集すべきデータや実施すべきテストがまだ残っているので、公式基準として承認されていないのです。また、基準を設けるにあたっては、一時的な要素と準静的な要素によるインパクトの違いを考える必要があります。言い換えると、身体を自由に動かしているときのロボットとの衝突をどう考えるか、身体の一部がロボットと静止したものの間に位置するときの衝突はどのようなものか、といったことへの考慮です。

新基準は今後数年のうちに公式に採用されることが期待されています。コボットの人気の高まりとともに基準策定は必須のものとなっており、それを適用していくことはさらに重要な意味をもちます。

コラボレーション・ロボットのリスク査定がユーザー間に普及すれば、技術仕様書から標準化への移行も透明化され、労働力として安全に取り入れるための道を切り開くのにも役立つことになるでしょう。

※最上部画像:Robotiq社提供

この記事はBRINKに掲載したものをベースにしており、ここに掲載した見解は下の各個人によるものです。

サミュエル・バウチャード氏はカナダのケベック・シティを本拠地とするRobotiq社の社長です。同社はロボットシステムの最先端のグリッパーとセンサーの製品化に注力しています。

マシュー・バレット氏はRobotiq社のテクニカルライターで、研究開発(R&D)エンジニアリングチームの一員です。製品開発、製造、工場内のインストールプロセスに携わっています。