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FastWorks – 巨大企業GEが、シリコンバレーのスタートアップから学んだこと

新しい時代に、新しいビジネスのあり方を
90年代から指摘されつづけている「イノベーションのジレンマ」という考え方があるように、成功体験によって成長した企業ほど、自らを革新することを忘れてしまい、競争力を失やすいのかも知れません。どんなにすぐれた企業であっても、規模や歴史をもつと、大企業病や官僚主義のような停滞のリスクと無縁ではいられません。GEのCEOであるジェフ・イメルトも『企業は10年から15年ごとに、それまで築いたものを破壊する覚悟で、ゼロからやり直す気持ちで企業文化を刷新していかなければならない』と語っており、いまGEはその努力に精を傾けています。

インターネットによって世界がネットワーク化されたことにより、ビジネスは真にグローバルで、これまでになくスピードが要求されるものとなりました。革新的なアイデアは次々と生まれ、世界のあらゆる場所で、それまでは想像もしなかったプレイヤーとの競争が湧き起こるようになっています。一方で、クラウド・ソーシングやマイクロ・ファクトリーなどの動きは、アイデアさえあれば、誰もがイノベーションを実現できるということを示しています。ブレイク・スルーは、もはや資本力・開発力のある大企業の専売特許とは言えません。もっと速く、もっと優れたソリューションを。顧客が必要としていることを素早く洞察し、アイデアをすぐにかたちにできる軽やかな身のこなしが、大規模な企業においてこそ、求められるようになっています。

GEがいま自己革新に取り組む理由はそこにあります。以前、「進化し、変化を続けることーGEの成長に向けた戦略と取組み」と題してご紹介したGEの5つの競争力革新ツールのひとつ”FastWorks”は、まさにこうした考えから生まれたものです(図1)。

図1 GEの経営変革ツール群

図1 GEの経営変革ツール群

新たな経営ツール”FastWorks”とは?
FastWorksは、世界中で大きな話題を呼んだ「リーン・スタートアップ」の著者、エリック・リース氏の監修を得てGEが独自に導き出したもので、将来予測が不確実な21世紀に効果的にビジネスを進め、経営や開発のスピードを高めることで顧客との距離を縮めるためのツールであり指針です。

ソフトウェア業界では広く浸透している「アジャイル開発」という手法をご存じでしょうか。最小限の機能で製品を作り上げ、それをユーザーに見たり使ったりしてもらいながら意見を取り入れて改良するという短期間のサイクルをスピーディーに繰り返す方法です。「ベータ版」として広くリリースしてユーザーの意見を反映しながら改良しているフリーのソフトウェアの例などは皆さんにも馴染みがあるかもしれません。

FastWorksとは、この“シリコンバレーのスタートアップ企業流”のやり方を重工業型のGEに取り入れてしまおう、というもの。その特長は、MVPs: Minimum Viable Products(実現可能な最小限の製品)をつくり、顧客の声を反映しながら、修正を行うことにあります。FastWorksを用いることで、顧客にとってより良い結果をスピーディーに実現できます。

日本GEでFastWorksの展開をリードする大塚孝之は「FastWorksの考え方は、いたってシンプルです。お客さまのペインポイント(困っていること)をスタート地点にします。根幹となるニーズを満たす最小限の製品をつくり、実際に使っていただきながら対話を繰り返しながら改良する。そのなかで、将来的なニーズを洞察し絞り込んで適切なタイミングに反映していきます」と言います。FastWorksのステップは、Build(構築)~Measure(測定)~Learn(学習)の3つで構成されます。顧客企業のニーズを理解し、製品化に必要な要件を棚卸しする。この段階でMVPs: Minimum Viable Products(実現可能な最小限の製品)と呼ばれる試作品を製作して、顧客の意見を聞きます。顧客からのフィードバックは即座に開発に反映され、改良が行われる。このプロセスを高速で、何度も回していきます。

図2 FastWorksのフレームワーク

図2 FastWorksのフレームワーク

そこで懸念されるのが、品質的にベストでないものを世の中に送り出してしまうことになりはしないか、ということ。特にインフラや医療機器をはじめとする、ミッション・クリティカルな製品を多く手がけるGEのような企業にとっては、極めて大きなリスクではないかという声がありました。「たしかに、ベータ版のような開発は以前のGEでは考えられませんでした。でも、まずつくってみて、短期間でバージョンアップする。だからといって品質面で妥協があってはなりません。GEには、不良品の発生を押さえるシックス・シグマや、プロセスの無駄を省くリーンのような、品質を高いレベルに保つためのツールセットが以前から浸透しています。FastWorksで開発される製品も当然これらに則っています」と大塚が言うとおり、品質管理手法を確立してきた歴史のうえだからこそ、FastWorksに真正面から取り組めるという側面もあります。

スタートアップ企業の手法を、30万人の大組織で実践する
ポイントは、FastWorksは単なる概念ではなく日々のビジネスや業務に実際に使用するツールであり、具体的な進め方が明確に定められ、メソッド化されている点にあります。この「定型化→明示(行動規範との連動、社内トレーニングの実施)→アクション」という浸透・実行のパターンは、前述のシックス・シグマを浸透させるときと同じであり、前CEOのジャック・ウェルチの時代から、GEの文化として深く根付いています。

FastWorksによって進められているプロジェクトはすでにあらゆる事業部門に広がっています。たとえば、主に介護施設で歩行のリハビリを受ける利用者様と理学療法士のために日本で開発した「AYUMI EYE」。センサーを利用して歩き方のバランスなどをデータ化し、モバイルデバイスと連動して歩き方の状態を可視化するというもの。実際に利用するお客様に仕様の詳細を開示し、そのフィードバックを元に修正・改良を加えることで、製品化決定から製品提供まで通常なら1年以上要するプロセスを3か月に短縮しました。

AYUMI EYE

AYUMI EYE

こうした小型の製品に限らず、大型の発電用ガスタービンなどでもFastWorksの取り組みは次々と実績を出しています。お客様が期待するポイントにフォーカスして開発することで、サイクルタイムや開発費用を削減するとともに燃焼効率を大幅向上した事例も。

かつて、開発に必要な人員や予算は、プロジェクトの承認と同時に大きく割り当てられていました。しかし、FastWorksにおいては、マイルストーンを達成するごとに次のステップに必要なリソースが確保できるという、ベンチャー・キャピタル・ファンドのようなスタイルになっています。まさに、小さくスタートして、速く、ベストフィットのサイズに無駄なく効率よく育てるのがFastWorks流のプロジェクトの在り方。

大塚はこう話します。「お客さまにより高い満足を迅速に届けられるかどうか。あたりまえですが、これが選ばれる企業の条件です。その競争のスピードも、お客さまが何かを求めるスピードも、どちらも増していますよね。FastWorksは、一言でいうなら“お客さまにもっと満足していただくための方法”。だからこそGEは、真剣に取り組んでいます」