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生まれ変わるGE、成果を売る企業へーー「FastWorks」と本気の変革の実態

日本では、GEという企業を知るきっかけになったのが「シックス・シグマ」だった、という方も少なくないかもしれません。「シックス・シグマ」、「リーン」や「ワークアウト」といった戦略的手法はGEの経営において依然重要です。しかし、今私たちが最も活用している手法は、「FastWorks」と名付けた新しい働き方。シリコンバレー流の働き方を“ザ・重厚長大”だったGEに持ち込み、どのようにして企業変革を進めているのかーーそのリアルをご紹介します。

時代は完全に変わった
超優良と呼ばれた大企業が破産するなど、競争環境はこの数年だけでも著しく変化しています。10年前、GoogleやAmazonのような企業のこれほどの大成長や、Air B&BやUberのようにアセットを持たずして大規模な事業を展開する企業の誕生を、一体どれだけの人が的確に予想できたでしょう。

技術の進歩がある以上、時代は変わるべくして変わります。そして今、そのスピードはかつてない速さに。創業から約130年経つGEのはじめの100年はモノを発明して売るのが仕事でした。最近までの30年は、たとえば“包括メンテナンス契約”のようなサービスを加え、ハードウェアの信頼性向上とユーザー企業のコスト削減に貢献するビジネスモデルを採ってきました。実際、産業分野におけるGEの事業収益の70%以上はサービス由来です。そして今GEは自らを『デジタル・インダストリアル・カンパニー』と名乗り、データ解析技術を駆使して、顧客企業にとっての“成果=アウトカム”を売る企業へと変貌しつつあります。1台のスマートフォンもアプリをバージョンアップすればその固体性能が進化するように、ガスタービンや航空機エンジンのような大型機器にもソフトウェア技術やデータ解析技術を組み合わることで、顧客への提供価値を高め続けられるのです。

品質やコストがビジネス・ドライバーだった時代には、シックス・シグマが合っていました。でも、世界はすでに「不確実性の時代」に突入しています。GEのCEOを務めるジェフ・イメルトも「これほどに不安定で不確実な時代は、誰も経験したことがない。過去のルールブックに頼っていては太刀打ちできない」と。いま、圧倒的な“スピード感”や“適応力”こそが、競争のドライバーになっているのです。

新たな経営戦略の遂行には、新しい企業文化と働き方が必要
技術力を強みとしてきたGEでも、ハードウェア的なアプローチによる性能向上には限界が見えはじめていました。自らクラウド・プラットフォームを提供し、データ解析や人工知能によって異次元の成果を導き出し顧客に提供する、という道は必然の選択でした。

航空機エンジンのように、人命や市民生活を預かるインフラ機器を手がけるGEにとって、製品の信頼性や安全性は生命線です。完璧な製品でなければ、世に出せないーーこれは一方で、仕事のしかたにおける慎重さ、官僚主義を誘発してしまっていました。GEの経営陣には痛烈な危機感がありました。2010年頃から、CEOのジェフ・イメルトは何度もアメリカの西海岸に足を運びます。シリコンバレーで活躍する、それも30歳前後の若き経営者たちとの対話を繰り返し、学びを得ようと努めたのです。「彼らは徹頭徹尾、顧客のアウトカム(成果)にフォーカスして動いている」――そうして、GE独自の経営手法「FastWorks」が生まれました。

GEが2012年に導入したFastWorksは、若き起業家で「リーン・スタートアップ」著者
エリック・リース氏の監修を得て独自に体系化したもの。
2015年からは開発・製造領域だけでなく全社の日常業務に適用できるようにした
「FastWorks Everyday」を全社にロールアウト、社員はその体現者となっている

FastWorks式の製品やソリューション開発においては、顧客ニーズに照らして仮説をたてたうえで開発に取り組み、その過程で顧客のフィードバックを得ることで必要に応じて方向転換を図ります。シリコンバレーで実践しているやり方を重工業領域で実践しています。最新のHA型ガスタービンは、この手法によって開発期間を従来の約半分の2年弱にまで短縮し、上市されました。その燃焼効率はギネス認定を受けるほどの高性能を、同時に実現しています。IoTのソリューション設計も同じ。GE Digitalは、顧客支援の初期段階で必ず「ペインポイント・ディープダイブ」というプロセスを踏み、顧客企業と共に、困っていること、本当に達成すべき課題はどこにあるかを明らかにします。ペインポイントの上にソリューションを設計してこそ、顧客の経営上の成果を最大化することができるからです。

GE流、企業文化の再構築――企業文化こそ経営戦略を動かすエンジン
「モノを売る」企業から「成果(=顧客企業にとってのアウトカム)を売る」企業へ、変貌を遂げるためには、思想だけでなく“行動をもって”変わる必要があります。顧客起点で最大のアウトカム(成果)をスピーディーに導く働き方、FastWorksを、経理部門や法務部門などバックオフィスを含む全社で実践できるようにしたフレームワークが「FastWorks Everyday」。これを感覚として体得できるよう、全GE社員を対象にした、アクションラーニング形式の研修を展開しています。

この研修で、最初にフレームワークは提示されません。言葉で示せば当たり前すぎるのです。行われるのは、参加者それぞれが実際の課題を持ち寄り、それを解決するための演習。演習を通じて大半の社員は、自分がいかに“アタマだけで”考える習慣がついていたかを思い知らされます。さらに、各自の専門性は時として仇(あだ)にさえなるということにも気付きます。これまで成果を挙げた方法の延長線上で「これが正しい」と考えても、昨日の正解は今日の正解ではない時代。不確実性が高まり、顧客自身も進むべき方向性が分からないなかでは、とにかく他者との対話を繰り返し、多様な考え方から学び、失敗を容認し、柔軟に方向転換=ピボットすることが必要だと気づきます。ここで得た“気づき”を日々の職場に持ち帰ることで、さらに深められるーーそんな仕組みのFastWorksの研修は、日本でもすでに1,300名以上が履修(2017年1月時点)しています。

日本で講師を務めるのは、普段は営業、財務、製造などの業務にあたっている21名の社員。日々の業務に加えて、喜んで普及に取り組み、そうすることが評価される土壌があるからこそ、FastWorksは急速に太い根を広げることができています。

新しい時代における日本人の強みと弱点
顧客起点の働き方、は日本人にとっては当たり前の精神。顧客の声に耳を傾けるーーこれは日本の得意領域です。しかし、踏み込んだ議論も繰り返し、本当に必要なことは何かを把握して、時には大方針さえ変更する必要性を認めることーーこれは日本人が苦手な部分かもしれません。一度決めた内容を後になって変えるのは熟慮が足りなかったのではないか、上司に悪い印象をもたれてしまう、関係者をお騒がせしてしまう・・・こんな不安から方向転換を躊躇し、ベストではないことに気付いてからも敷いたレールの上を走り続けてしまう。企業単位なら、撤退や戦略変更の意思決定が下せない、という事態に及びます。完璧を目指すのではなく、走りながらチューンアップすること。恐れずピボット(方針転換)すること。失敗が許されない環境ではなく、早期の失敗を容認し、そこからの学びを活かすことを評価できる環境を築くこと。・・・この感覚がなければ、今後の競争を勝ち抜くのはより厳しいものになってしまいます。

FastWorksのロールアウトと同時期、GEは社員の人事評価の基準にもなる行動規範も、これからの時代に合ったものへと改めました。また、FastWorksの研修は、まずリーダー層を対象に実施しました。各組織のリーダー層がまず変革の意図を理解し、自らが体現しながら部下の変化をサポートできるようにするためです。日本での研修では、様々な事業部門からの参加者が一緒に演習を行います。個々のリアルな業務課題を持ち込んだ演習からは、仕事の種別を問わず新しい働き方で成果を最大化できることに、思わず納得させられます。

競争が激化し、不確実性が増す時代だからといって恐れる必要はありません。時代の転換期はチャンスです。変革を、戦略・競争上の優位性にすること。FastWorksは単に新しい働き方という手法であって、その目的は、顧客企業の成果を最大化することにあります。なぜなら、私たちの行動規範「GE Beliefs」の1つ目にも記されていることーー“Customers Determine our Success(GEが成功するかどうかを決めるのはお客様である)”、これが競争市場における原理だからです。

GEが活用する経営上の主な戦略的手法