ロゴ

日本企業のイノベーションを巡る大きな矛盾とは?(後編)

前編はこちら

企業や国の成長を牽引するイノベーションに、これから企業は、担当者は、どのように取り組めばよいのか?

それを考えるべく日本GEが主催した「Japan is Backフォーラム」に迎えた米倉誠一郎教授と遠藤謙氏がどのように見ているかをご紹介します。米倉教授が指摘する組織全体に広げるためのマネジメントの課題、また、現場の研究者の視点からMIT(マサチューセッツ工科大学)によって2012年の「35歳以下のイノベーター35人」に選ばれた研究者でもある遠藤氏の声には、日本のイノベーション力を高めるためのヒントが。

“イノベーションは企業活動全体に適用可能な幅広い概念。経営層は気概と自覚を持って取り組むべき”

「GEの調査で『われわれの生活をよりよくした原動力はイノベーションだ』と67%が肯定的に評価している点からも、2014年の日本のエクゼクティブたちの意識は大きく改善したと言えます。しかし、この調査回答者が

イノベーション戦略に責任を持つ経営層であることを考えると、不甲斐ないですよね。世界は日本を依然、イノベーションを牽引する国として期待しており(下図)、日本の経営者層はもっと自信をもって世界のイノベーションをリードすべき立場にあるのです」(米倉教授)

日本ではinnovation=技術革新と訳されるケースが多いですが、中国ではinnovationを“創新”と訳すことをご存じでしょうか。米倉教授は、イノベーションは技術革新にとどまらない、と強調します。「たとえば、JALを再生させた稲森式アメーバ経営も立派なイノベーション手法。イノベーションを十把一絡げにせず、それを行う分野の対象を絞り込み、必要な予算とリソースを配分し、適切な経営戦略と結びつけていけば、大きな成果を上げられるはずです」

米倉誠一郎氏
一橋大学イノベーション研究センター 教授/プレトリア大学 日本研究センター 教授・所長

続けて教授はこう警鐘を鳴らします。「ビッグデータ/インダストリアル・インターネットの時代において、膨大なデータを大量に収集・分析し、さらにはそうした解析結果を新たなビジネスに結び付けるには、とても1社の知識や能力では対応できません。ビッグデータの時代は、多様な知識を持ったプレイヤーが参加するオープン・イノベーションを必然的に要求しています。日本のイノベーション担当者はさらに必死になって研究・学習・交流を率先しないと、世界は遥か先の手の届かないところに行ってしまいかねません」

“本質的な実力のある人が情熱を持って取り組む。その結果がイノベーションにつながる”

「大学時代の友人が癌で足を切断することになり、何かできないかと考えたことが義足開発に取り組むきっかけでした。視力が低くてメガネをかけているからといって障害者とは呼ばれません。これと同じことが義足でも起きればいい、と思うのです。競技用義足でいえば、2020年の東京で、日本人のパラリンピック競技者が金メダル、しかも健常者のオリンピック・チャンピオンの記録に勝つ、ということを本気で目指しています」と語るのは、マサチューセッツ工科大 博士課程 在学中から義足開発に取り組み続けてきた遠藤氏。

遠藤謙氏
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー

「イノベーションとは何かを語るのは難しいですが、研究者の立場から技術的なイノベーションについて言うならば、それはひとりないしはふたりの中心的人物が、思い入れやパッションのあるものに対して身を投じてやった結果だと思っています。学術的な知識や経験があり、熟練しているなど、本質的な実力のある人が情熱を持って取り組まなければならない」と語る遠藤氏。そのうえで、自身が考えるイノベーションのための重要項目として次の4つを挙げています。

  • Mens et Manus*(知識と実践)
  • Diversity(専門分野の多様性を持った人が集まること)
  • Inclusive(ユーザーやさまざまなステークホルダーをデザイナー・開発者の一部として巻き込むこと)
  • Co-creation(一緒になって作り上げていくこと)

実際に、遠藤氏はいろいろな患者さんに試作品を使ってもらってデータをとりながらユーザーと一緒にものづくりをしています。「未完成のものを使わせるのは危ないという意見もあります。しかし、完成品を仕上げるということは非常に時間とコストのかかることです。リスクを最小限に抑えつつ、プロトタイプをどんどん試作してトライする方が、圧倒的にいいものが短時間のうちに作れるんです」という言葉には、実際にものづくりに取り組む遠藤氏ならではの説得力が。

「イノベーションは人からしか生まれない。特にメガヒットを生むには、本質的なものが必要です。それはやはり人。その人の圧倒的な情熱であったりとか、圧倒的な知識やスキルであったりとか。そういうものが、突き抜けた原動力になりますから」 と語る遠藤氏。日米の環境の違いについては 「米国は、調子に乗っていた人が失敗してたたき落とされたとしても、やり直しがきく社会。日本は、それを許容する社会ではない気がします。ベンチャーならまだしも、大企業のなかでは、特に管理職の人は絶対に失敗できない状況に置かれているケースが多いですよね。失敗をおそれて身構えてしまうので、新しいものが生まれる文化・素養は大きな組織の中では生まれづらい現状がある」 と語ります。

遠藤氏が籍を置くソニーコンピュータサイエンス研究所は、個人の関心にしたがって研究テーマを決め、一人黙々と研究できる環境があると言います。「足りないところは自分で仲間やファンドを募って補うという体制になっていて、外部との協業も奨励してくれる環境です。だからやれている、というところもありますね」

世界でイノベーション牽引国として認知されていながらも、かつてのペースを失っている日本。米倉教授、遠藤氏、それぞれの話から、組織体制や社会認識の是正を図る必要があることが解ります。しかし、日本の課題は底深いもののそれに正しく取り組むことが出来れば、それだけ「のびしろ」があると考えることもできます。

大企業とベンチャー、組織と個人。
それぞれの強みを最大限に引き出せる仕組みや環境を整えると同時に、日本の枠内のみで考えるのではなく、刻々と変化する世界に目を向け「使えるものは使う」という貪欲さをもってコラボレーションに挑む必要がありそうです。GEは引き続き、日本企業と共に世界にイノベーションを届けるための相互補完的なコラボレーションの取り組みを進めていきます。

->GEグローバル・イノベーション・バロメーター2014 レポート全編はこちら
->米倉誠一郎教授による解説全文はこちら

*”Mens et Manus”=Mind and Hand(知識と実践)という意味のラテン語。もともと職業訓練校としてスタートしたMITの研究姿勢を表す言葉