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シンプルな酵母から発見された「オートファジー」とノーベル賞

洞穴で暮らしていた原始人の時代から、リサイクルは人の生活に欠かせないものでした。彼らは古くなった、あるいは壊れてしまった道具から火打石や骨を回収し、新しい道具を作り出していました。これは遺伝子に組み込まれた習慣と言ってもよいのかもしれません。

2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典栄誉教授が発見した「オートファジー」も、生体細胞が古くなったり、壊れたりした細胞内の構成要素を分解・再生する役割を果たしているリサイクルシステムです。

スウェーデンのカロリンスカ研究所の生物学者で、ノーベル生理学・医学賞の選考委員でもあるジュリーン・ジラース氏によると、人は毎日、最大300gのタンパク質を体内で入れ替える必要があるとのこと。しかし、私たちの食事を通じた1日のタンパク質平均摂取量は70g程度にすぎず、残りはオートファジーのようなプロセスを通じて細胞内で補っています。「この精巧な仕組みによってタンパク質がリサイクルされるおかげで、私たちは生き続けることができるんです」と同氏は説明します。

哺乳類から単細胞生物の酵母まで、多種多様な生物が生きるうえで欠かせないオートファジーの詳細は、細胞生物学者である大隅良典教授が研究を開始した1990年代まで明らかになっていませんでした。教授の生物学的探求の成果が10月のノーベル生理学・医学賞受賞につながったのです。大隅教授の研究にはGEヘルスケアのライフサイエンス部門が製造した高解像度顕微鏡も利用されました。

大隅教授のチームが利用したのと同じ顕微鏡、DeltaVision Eliteで
撮影したトキソプラズマ・ゴンディという寄生生物の画像
(画像:ジョージア大学Muthugapatti Kandasamy氏)

最上部の画像:大隅教授のチームはまず、実験用に準備したサッカロマイセス・セレビシエという
シンプルな出芽酵母を用いてオートファジーの研究を行った。
この出芽酵母はワインやビールの醸造における発酵を担う代表的な菌株でもある

細胞はオートファジーがなければ死んでしまうことからも、オートファジーを理解することには重要な意義があります。オートファジーは細胞が新たなタンパク質や構造体を作り出すために必要な原料を、生物の寿命が尽きるまで補給し続けるとともに、蓄積すると害を及ぼす可能性のある傷ついたタンパク質を除去するうえでも不可欠な役割を果たしています。また、免疫システムでも重要な役割を担っていて、侵入してきた病原体を無力化したり、排除したりしているほか、がんやパーキンソン病、アルツハイマー病にも深く関係しています。

大隅教授がオートファジーの研究を始めるまで「この仕組みは知られていなかった」とジラース氏は話します。「この仕組みがどう機能するのか分からなかったし、病気と関連があるかどうかも未知数でした。ところが、大隅教授は、他の研究者が避けてきた課題に関心を持たれたのです」

GE製の顕微鏡、DeltaVision Eliteで作業する技術者
(画像:GEヘルスケアのライフサイエンス部門)

1990年代後半になると、大隅教授は研究を進めるうえで、より小さな構造体を解明する必要に迫られ、それまで利用してきた顕微鏡の性能に限界を感じ始めます。しかも、より細部まで観察しようと、いっそう多くの光を顕微鏡に集めると、それによって熱が生じ、細胞が死んでしまう可能性もあります。「当時、大隅教授のラボで使用されていた機器の解像度では、『生物の動きを観察しているのか、極小の目玉焼きを観察しているのか』分からない状態でした」とGEヘルスケアのライフサイエンス部門でサイエンスディレクターを務めるポール・グッドウィンは述べています。

大隅教授のチームはこの状況を打開するため、2001年からDeltaVisionという当時最新鋭の蛍光顕微鏡システムを採用するようになりますが、この技術は後にGEヘルスケアのライフサイエンス部門が買収することになりました。この顕微鏡システムがあれば、生物学的材料をこれまでよりずっと優しく扱えるようになるので、研究者は生物学的プロセスに起きた変化を、高度に拡大したタイムラプス撮影画像によって鮮明に記録することができます。大隅教授のチームは、オートファーゴソームという小胞が細胞内の物質を取り囲み、酵母の液胞と融合する様子を詳細に観察するのにこの顕微鏡システムを用いました。この過程では、より大きな分子を分解できる酵素が作り出され、オートファジーに関わるタンパク質が徐々に局在していきます。

こうした研究の次なるステップとしては、超解像顕微鏡法による酵母の観察が挙げられるでしょう。超解像分野では、GEヘルスケアが2次元や3次元のイメージングも可能な先進のマルチモード搭載の超解像システムを手掛けています。GEのグッドウィンは、超解像の先端研究はオートファジーの秘密をさらに解き明かし、この基礎科学を病気の治療や予防に活用するための新たな扉を開く可能性も秘めている、と述べています。

「生物学の世界では、DNAにしろタンパク質にしろ、ものを作り出すことに注目しがちで、その対極に生じる現象を見落としています。タンパク質を作ることと同様に、分解や再生の仕組みを理解することも重要なんです」とグッドウィンは力説し、次のように続けます。「このプロセスを活用して新たな治療法を生み出すことができたり、このリサイクルプロセスをがん細胞内だけで阻害することで、がん細胞のみを死滅させられたりしたらどんなに素晴らしいでしょう」

GEは、医療の大きな可能性を拓いた大隅栄誉教授に、祝福と敬意を表します。GEはメーカーとして、こうした素晴らしい研究者の方々の活動をサポートする機器の開発と提供にいっそうの努力をはらっていきます。


参考文献:Yoshinori Ohsumi et.al. The pre-autophagosomal structure organized by concerted functions of APG genes is essential for autophagosome formation EMBO J. 2001 Nov 1; 20(21): 5971-5981.