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手を使って作業するロボットの開発が想像以上に難しいワケ

ノースイースタン大学のTaskin Padir教授によれば、ロボットが人と一緒に稼動して最も役立つ存在になるために必要なのは、人の手が2つでは足りないときに、ロボットが文字どおり“手を貸せる”ようにする方法を見つけることだとか。今日はTaskin Padir教授の寄稿をご紹介します。

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人にとって、なかでも製造業に携わる人にとっては、結び目を作ったり、ケーブルの皮を剥いたり、穴にピンを差し込んだり、ドリルのような工具を使用することも日常茶飯事です。こうした作業は単純作業に思えるかもしれませんが、実はとても複雑で、指と手の非常に細かな動作が関わっています。

ロボットは工場以外にも、サービス産業やヘルスケア産業など多種多様な仕事にどんどん利用されるようになってきていますが、ロボットの器用さはというと、手放しで褒めるにはほど遠い状態。ロボットが自動車工場に初めて導入された50年以上前から、溶接や塗装、パーツの組立が得意なロボットは製造され続けてきました。今日の最高レベルのロボットハンドは馴染みのあるモノを取ってきて、別の場所に移すことができます。たとえば、倉庫の置き場から製品を取って箱詰めする、といった具合です。

でもまだ、ロボットは手工具の適切な使用、つまりプラスドライバーをねじ溝に合わせたり、金槌で釘を打ったりすることはできませんし、リモコンの電池交換のように両手を同時に細かく動かす作業には全く対応できていません。

人の手はこうした作業だけでなく、さまざまな用途で素晴らしい働きをします。人の手なら簡単にできることでも、ほぼ同程度にこなそうとすると、ロボットハンドの場合は俊敏性や信頼性、強度をさらに向上させなければなりません。そして、より正確な感知や今よりもっと細かな動作を可能にして、掴んでいる物や、もっとも適切な掴み方を把握させる必要があります。ロボットを人のそばで稼働させるためには、私たちの2つの手では足りないときに、ロボットが文字どおり手を貸せるようにする方法を見いだす必要があるのです。

Taskin Padir氏
ノースイースタン大学電気・コンピューター工学部准教授

ノースイースタン大学の私の研究グループはまさにこうした研究を進めていて、特に米航空宇宙局(NASA)のヴァルキリーのようなヒト型ロボットを対象にしています。このロボットの手にはそれぞれ3本の指と親指があります。各指には指関節のような節があり、手には簡単に回転する手首が付いています。私たちは現在、腕、手首、親指、それ以外の指の動きを組み合わせた動作の生成に取り組んでいます。ボルトを締めるためにスパナを回したり、ある場所から別の場所へカートを引っ張るような作業を行うための一連の動作です。

手の重要性
私たちは個々のロボットを特殊作業向けにカスタマイズするのではなく、多目的ロボットや、ありとあらゆる作業に対応できる「汎用」ロボットと呼べるような優れたマシンを設計することを目指しています。こうしたロボット開発の成功の鍵のひとつは、高機能なロボットハンドでしょう。

私たちの研究では、正確で細かい動作をする能力や自立的に物を掴む力を備えた、適応力のある新タイプのロボットハンド設計に注力しています。釘を打ったり、電池を交換したり、これらの動作を行うことは、人にとっては簡単ですが、ロボットにとっては複雑な作業。ロボットにこうした作業が可能となれば、人間並みの器用さを持つロボットハンド開発が軌道に乗った、と言えるでしょう。

この目標を達成することは、硬い物と柔らかい物の要素を兼ね備えた新たな設計の考案にもつながります。物をつかむとき人の骨には力が入りますが、皮膚が圧力を分散させてくれるのでワイングラスが割れることはありません。このしくみを、設計に取り入れるのです。

開発とテストを加速させる
近年の技術進歩によって、開発プロセスは以前より容易になっています。3Dプリンティング技術のおかげでプロトタイプ(試作品)を非常に早く制作できるようになり、低価格で使い捨ての部材を作ることまで可能になったため、単純なピック・アンド・プレース(物をつかんで決められた位置に置く)作業向けの2本指や3本指のグリッパーや、より繊細な作業のための人の手に似たロボットハンドなど、さまざまにアレンジした構造を試すこともできるようになりました。

デジタルカメラやデジタルセンサーがより小型化されれば、それらを新たな方法で内蔵することができます。例えば、圧力センサーとカメラをロボットハンドに内蔵すれば、安全に掴めている場合はもちろん、もし何かが滑り落ち始めた場合にも、ロボットの制御装置(人が担うにしろ、自動化するにしろ)にフィードバックすることができます。ロボットが物の滑った方向を感知して、キャッチできるようになる日だって、そのうち来るかもしれません。

人はこうした能力を視覚や固有受容(見たり考えたりすることなく、体の部位の相対位置を感知する能力)を通して自然と身に備えています。もし、これをロボットに実装できれば、掴む力が強すぎる場合や、物に圧力をかけすぎた場合にそれを検知する、といったことが可能になるでしょう。

協調性ある動作を計画する
新たなマイルストーンによって、各瞬間にロボットハンドで起きていることを感知させるなど、必要な動作をリアルタイムでロボットに把握させる方法が開発されることもあるでしょう。ロボットハンドが処理している物の変化を検知したり、物を掴みながら操作できるようになれば、結び目を作ったり、ケーブルの皮を剥くといった一般的な手作業にも活用できるようになるかもしれません。

ロボットが両手で同時に作業を行えるようになるのはまだずっと先の話ですが、実現すればとりわけ製造業に大きな進展をもたらすでしょう。ロボットが両手でドリルを操作したり、機械部品を一方の手からもう一方の手に移動させることができるようになれば、大幅な(生産性の)改善につながりますし、工場ではより複雑な作業工程でも自動化することが可能になります。

私たち人間はまだこうしたシステムを開発できていません。ロボットに人間並みの自立した器用さを持たせるために、ロボット研究者や技師、イノベーターは当面、奔走することになるでしょう。しかしこれは、製造業で進むロボット革命を失速させるものではありません。現在のプロセスには安全性やスピード、品質の向上を自動化する余地がまだたくさん残されているからです。しかし、私たちがロボットをさらに優れたものにできれば、そのロボットたちに手を貸してもらえるようになるはずです。

※最上部の画像:Getty Images
※この記事はThe Conversationに掲載されたものをベースにしています。
※本記事に掲載されている見解は著者個人によるものです。