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2015 – ものづくりにおける“デモクラタイゼーション(民主化)”躍進の年

今日は、GEが科学者やエンジニア向けに運営するウェブサイト「IDEAS LAB」より 世界の「テクノロジー」をめぐる今後の行方を感じられる記事をご紹介。この記事は米国海軍の指揮官であり米Autodesk社のイノベーションチームに在籍するT.J.ニール氏が同ウェブサイトに寄稿したものです。

(以下、T.J.ニール氏の寄稿)
米国の権威ある辞書出版社、メリアム・ウェブスターが発表した2014年の流行語は「カルチャー」でしたが、2015年は「デモクラタイゼーション(民主化)」という言葉がポピュラーになると私は予想しています。

おそらく「デモクラタイゼーション」という言葉は、誰もが実際に使うものになるわけではありません。でも、「誰もが利用できるものの創出」という意味を持つこの言葉こそ、2015年とそれ以降の世界のトレンドを示すものだと思うのです。設計・製作の最先端ツールは、使いやすさが急速に向上しているだけでなく低価格化も同時に進んでいます。これまでは組織力や資金力を持つ企業や機関でなければ出来なかったことが、個人や小規模なグループの手で実現できるようになっています。

現に、社員50名ほどから成るMoon Expressという小さな企業が、NASAとの契約のもとでGoogle Lunar X PRIZE(月面走行賞金レース)というコンテストに向けた「月面への軟着陸を2015年末までに達成する」というミッションを請け負っています。Moon Express社が最後に成功を収めるかどうかは別としても、シリコンバレーの小さなスタートアップ企業が文字通り月に手を伸ばすなど、人類が初めて月面に降り立った時代には想像さえ出来ませんでしたよね。当時、この国家事業には最先端研究に10年の歳月と1000億ドルもの国家予算が費やされていたのですから。

私はAutodesk(3D設計ソフトウェア企業)の戦略イノベーションチームに所属していますが、幸運にもこのポジションからは設計・製作ツールの“デモクラタイゼーション”の様子がつぶさに見えてきます。私たちの顧客が自ら想像を巡らせ、設計から製作まで手掛けて見事なアプリケーションを完成させた事例もありました。テクノロジーの民主化は、この先、よりよい世界を築く可能性を秘めているのです。

リアリティ・コンピューティングのデモクラタイゼーション

リアリティ・コンピューティング」は新出の技術用語ながら、急速な拡がりを見せています。大まかに言えば、アトム(原子の意。ここでは物体を意味します)からビット(情報)への変換と、変換後のビットの操作という意味を持つ言葉です。ここでは、アトムからビットへの変換という点に焦点を当ててお話ししましょう。これらは「リアリティ・キャプチャー」として知られ、現在は三次元あるいはそれ以上の次元で実現しています。アトムをビットに変換するのに、これまではレーザースキャナーが使用されていましたが、そうしたスキャナーは何万ドルもする上、スキャン対象物が動く範囲に厳格な許容限度が定められていたり 対象物について適切な登録をしなければならないなど、さまざまな制限がありました。

Autodeskの123D CatchReCap 360Mementoといった最新アプリやソフトウェアを使えば、個人が無償でクラウドコンピューティング・ツールにアクセスし、家庭にあるありふれた物体から産業インフラのような複雑な建造物まで、さまざまな対象物の高解像度3Dモデルを生成することができます。撮影には携帯電話の内蔵カメラ以上に高性能な機器は必要ありません。一旦これらのモデルをデジタル領域に移行すれば、これらの最新デジタルデザインツールが提供する機能を用いて、簡単かつ自由自在にビットデータを操作できるようになるのです。ここから先は次のトレンド、「デザインのデモクラタイゼーション」に話を移しましょう。

デザインのデモクラタイゼーション

1960年代初頭、CAD(コンピューター支援設計)の最初の試みは、設計作業を製図版からデジタル世界へと移行させる役割を果たしました。1980年代の前半に起こったパソコンの登場と普及は、この強力な新しいツールをより多くの人々が活用できるようになる機会でもありましたが、多くの場合、その複雑性ゆえにCAD専門の工業デザイナーや建築士だけの、限られた世界の道具になってしまいました。

2010年代も半ばに差し掛かった今、デザインソフトウェアの使い勝手は飛躍的に向上し、学生や初心者でさえもバクテリアのDNAのような極めて複雑な物体のモデルもコンピューター上で操れるようになりました。TinkerCad123D Designといったツールへの無償アクセスは、初心者が3Dデザインの世界に足を踏み入れるきっかけをつくっています。また、教育者や学生、スタートアップ企業もInventorFusion 360等より強力なツールを自由に利用できることで、先述のMoon Express社の例のように、別世界で使用する複雑な製品の設計やシミュレーション、デジタル上でのプロトタイプをも簡単に実現できるようになっているのです。

製作のデモクラタイゼーション

3Dプリンティングなどのデジタル分散型生産は高度化と低価格化が進行し、またハイエンドの製作ツールはTechShopなどの共有スペースを通じて所有型から利用型へとシフトしていることから、やる気があれば誰でも自分のアイデアを形にできるようになりました(日本でも、首都圏のTVCMで目にするDMM.make AKIBAを代表例に、こうした動きが進んでいます)。その典型的な事例が低価格の小型人工衛星を製造するPlanet Labsです。このスタートアップ企業は、部品の大部分に既製品を使用することで低コストを実現し、同社初の人工衛星を文字通りガレージで組み立てました。付加製造、すなわち3Dプリンティングの世界では複雑性は何ら障害にはならないため、個人が試行錯誤を繰り返しながら手早くプロトタイプを作成できます。ここでは、従来の製造技術の限界の多くや、その限界ゆえに技術の習得に必要とされた数十年もの修行期間が不要になります。Autodeskが初のオープンソースの統合型3Dプリンター/オペレーティング・ソフト、Ember/Sparkを発表したことを受け、今や個人や小規模なグループが最先端の付加製造の促進に積極的に関わることができるようになりました。

今私たちは、物質(アトム)からデジタル領域(ビット)への変換とその領域内での操作、シミュレーション、プロトタイプ、またこれらビットからアトムへの逆変換を容易に実現できるようになったことで、最終的に現実世界の成長をムーアの法則に沿ったデジタル技術の指数関数的な成長に結び付けることが可能になりました。また、個人や小規模グループがこれらのテクノロジーをほぼ無償で利用し、それらを使いこなすのに「もはや高度な教育は必要ない」ということは、同じように指数関数的に増加する利用者数全体のイノベーションの可能性を、これらのデジタルの成長曲線にリンクできるということです。このように “cloud(クラウド)”を“crowd(大勢の利用者)”につなげることで、これらのテクノロジーの“デモクラタイゼーション”は一層、真価を発揮することでしょう。

2010年代前半、Moon ExpressのMX-1月着陸船の初試験飛行、Plant Labsがガレージで製作した低コスト人工衛星の軌道到達、学生が設計・製作し誕生させた遺伝子組み換えによるミントの香りを放つバクテリアを目にしました。2010年代の後半にはきっと、cloudとcrowdの双子の指数関数的な成長曲線が描かれる様子を目にすることでしょう。2015年の終わりにウェブスター社が異なる結論を出したとしても・・・私にとっての2015年のワードは「デモクラタイゼーション」です。

T.J. ニール氏(著者):
Autodesk社の戦略イノベーションチームに在籍し、国防長官のコーポレート・フェローとして米国海軍の現役指揮官を務める。この記事中で述べている視点はニール氏個人のものであり、必ずしもAutodesk社や米国政府の考えを代弁するものではありません。