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あなたは医療用ロボットに身を任せられるか?

ロボット工学の分野でもっと進んでいる「産業用ロボット」。
しかし今後はヘルスケアなどで活用される「サービス・ロボット」が産業用ロボットの市場を大きく上回ると予想されています 。

最先端のロボット工学、と聞いて、皆さんは何を想像するでしょう?子供の頃アニメやSFで見ていたアトムやガンダム?それとも、工場のラインに組み込まれ、黙々と作業をこなす大きなマシーン?ソフトバンク社の「Pepper」を思い浮かべる人も多いかもしれませんね。

現実の世界でもっと進んでいるのは、いわゆる「産業用ロボット」の世界でしょう。2011年の段階ですでに全世界6,628億ドルもの大きな市場が存在し、最近では、人と同じ職場で働くための安全性を確保した「コボット(コラボレーション・ロボット)」と呼ばれるロボットも、着々と普及を始めています。日本でも、23年12月の規制緩和によって、出力80W以下のロボットであれば枠に囲うことなく人と同じ生産ラインで作業をすることが可能に。日本政府の日本再興戦略の中でも「ロボット新戦略」として掲げられるように、産業用ロボットの活用・普及は大いに期待されています。

しかし今後、産業用ロボット以上に注目を集めていくと考えられているのが「サービス・ロボット」という分野。経済産業省が発表した「2012年ロボット産業の市場動向調査結果概要」でも、2035年にはサービス・ロボットが国内ロボット市場の55.9%を占め、産業用ロボットの市場を大きく上回ると予想されています。この「サービス・ロボット」躍進の大きな柱のひとつとなるのが、ヘルスケア市場におけるロボット工学の活用です。

ヘルスケア市場でロボット工学が活用されるメリットのひとつがオートメーション。ロボットであれば、反復作業を、高速に休みなく、比較的低コストで行うことが可能なため、多種多様なサンプルと比較検証する初期段階の薬剤設計で大いに役立ちます。例えば、イングランドのケンブリッジ大学で開発されたロボット“科学者“「イブ」は、1日に1万を超える化合物のスクリーニングが可能です。さらに、人工知能(AI)も備えた「イブ」は、単なるテスト作業だけでなく、今年に入って、抗がん特性を有する化合物がマラリア対策にも有効であることを発見しました。ちなみに、新たな科学的発見するために開発されたロボットは「イブ」が最初ではありません。2009年に、「アダム」というロボット科学者が開発され、パン酵母のゲノムに関する実験を実施・分析。同じ開発チームが、その後継として開発した「イブ」によって、今後、新薬発見のプロセスが迅速化するとともに経済的に行うことが可能になると期待されています。

ソフトバンク社のサービスロボット「Pepper」

ヘルスケア市場における医療用ロボットへの期待、そのふたつ目は患者の移動など、一般的にイメージされる、患者、介護者へのサポート。「医療分野のロボット工学技術は、介護の提供・管理・受け入れの負担を軽減する上であらゆる作業に最適です」と、ノートルダム大学の情報理工学部でロボット工学・健康・コミュニケーション研究所の責任者であるローレル・D・リーク氏は話しています。

現実問題として、2050年までに世界人口の22%が65歳を越えるという推計を考慮すれば、こうしたサポートは非常に重要になってきます。特に、現在すでに人口の4人にひとりが65歳以上の高齢者で、2035年には3人にひとりになると言われている日本では、医療福祉分野の人手不足は将来に向けた深刻な課題。すでに「Pepper」に象徴されるコミュニケーション・ロボットの導入が始まったほか、高齢者の活動をサポートする「自立支援ロボット」や、空間そのものが高齢者の生活をサポートする「居住空間ロボット」といった分野で、大和ハウスセキスイハウスパナソニックなど、様々な業種の企業が多様なロボットの研究/開発を進めています。

海外でも、イスラエルのベングリオン大学では現在、ユーザーごとに異なる歩行の癖やペース、能力にロボットを適応させるアルゴリズムの改変に取り組んでいます。また、米ゼネックス社は、病院のスタッフ支援、環境衛生の維持に貢献するロボットを開発。同社が開発している「消毒」ロボットは、すべての病室を消毒し、クロストリジウム・ディフィシムやメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの有害病原体を約5分で除去することができます。

そして最後に挙げられるのが、ロボット工学による外科医のパフォーマンス向上。ロボットが初めて医療手術のサポート役を務めたのは1985年のこと。以来、テクノロジーは着実な進歩を遂げ、今ではインテュイティブサージカル合同会社手術支援ロボット「ダビンチ」が臨床応用されています。さらにビッグデータや画像認識ソフトウェアと組み合わさることで、今後ますますの期待が寄せられていて、グーグル社のような企業もジョンソン&ジョンソン社、外科用医療機器メーカーのエチコン社とともに次世代手術支援ロボットの共同開発に乗り出しています。

どれだけテクノロジーが進歩しようとも、最終的に普及するかどうかはサービスを受ける側の反応で決まります。英国工学技術学会がイギリスで実施した最近の調査によると、高齢者の医療や障がいのある人の介護にロボットの活用を考慮してもよい、と答えた回答者は、全体のわずか3分の1とまだまだ抵抗感が強いのが実態。この点についてリーク氏は、人々がロボットの利点を理解するようになるにつれ、心理的な抵抗感は低減していくだろうと指摘しています。「最初に携帯電話が生まれたとき、それを使う人はほとんどいませんでした。でも、そのメリット、便利さに気がつくと、至る所で目にするようになり、今では多くの人にとって不可欠なものとなっていますよね」

ロボット活用は、もはや避けることのできない世界的な趨勢となりつつあります。その中で、どこまでロボットにゆだねるのか、アニメやSFの世界で描かれていたような共存が実現するのか、その選択はこれからの私たち次第といえるでしょう。