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GEのアイデアは「デジタル・ツイン」。現実世界と仮想世界の対比を分析、プラントの運転を効率化

下水処理場を思い浮かべると多くの人は鼻をつまみたくなるかもしれません。でも、GEグローバルリサーチ・センターの化学者、ジェイソン・ニコルズは下水処理場のデータ・プールに飛び込むことを決めました。ニコルズと彼のチームは、下水処理場で得られるデータを活用して、コンピューター上に水処理プロセスを再現したモデルを構築しようとしています。実際の処理場とこの仮想モデルが双子のようになることから、GEはこれを「デジタル・ツイン」と呼んでおり、下水内部で実際に何が起きているのかを明らかにしようとしています。「正常に機能している処理場というのは、フレッシュな土か培養土のような臭いがするものです。悪臭が発生してしまうのは、処理場で何か異常が起きている証拠なんです」とニコルズは話します。

デジタル・ツインは悪臭源の特定はもちろん、他にも多くのことに役立つ可能性を秘めています。たとえば、コンピュータ上に再現された実環境の情報やアルゴリズムを利用して、データクラウド上に(悪臭を取り除いた状態の)処理場を再構築することもできます。ここから得る知見によって、ニコルズとチームは廃水処理の効率化を図ることができます。「こんなことを考える人はまずいないと思うけど、あなたがトイレの水を流した後にも、莫大な費用がかかっているんです。現代社会はハイテクな水処理技術を手に入れたけれど、つねに最高効率で処理場を機能させられているわけじゃないんです。でもたとえば、すべての下水処理場のデジタル・ツインを構築できれば、今後10年で世界的に40億~60億ドルのコスト削減も夢じゃなくなりますよ」と彼は続けます。

下水処理はおカネのかかる事業です。たとえば、米国の自治体は毎年、上下水道処理システムの導入、アップグレード、運営に1千億ドル近くもの税金を投じています。コストは増え続けると予想されるため、各市議会はコスト削減に必死です。

ジェイソン・ニコルズ

ラボ内のジェイソン・ニコルズ
(記事最上部の写真ともに:GEグローバルリサーチ)

有機金属化学の博士号を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で博士研究員を務めていたニコルズは、ついにチャンスの匂いを嗅ぎ当てました。数カ月かけて下水処理場に関する物理学と生物運動力学のモデルデータを分析したところ、多くの下水処理場では処理中の汚水池に必要以上の空気を供給しており、無駄に莫大なコストをかけてしまっている事実が判ったのです。

ニコルズたちはまず処理場内に化学センサーを設置し、その後、データを吸い上げ、処理場内で生化学的機能を作動させるクラウドベースのアルゴリズムを構築することによって、下水処理プロセスを効率化する知見を得ようとしています。彼らはデジタル・ツイン構築の第一歩として、生化学的・物理的シミュレーションによる状況把握にすぐさま着手しました。処理場に流入する下水量は日数(数日間か、数週間か、数カ月間か)によってずいぶん変わりますが、現状では大半の処理場が汚水池にポンプで供給する空気量を最大に設定しています。「処理すべき下水量を明確に予測できない以上、最大限の空気を送り込んで、汚水池の微生物に十分な酸素を与えようと考えるのも当然で、仕方のないことです」

ニコルズはデジタル・ツインを活用すれば、処理場のオペレーションで見落とされてきたパターンを発見したり、流入する下水量を予測したり、必要な酸素レベルを正確に測定することができるようになると期待しています。「ある事象がどうして起きたのか、その原因を把握してソリューションを提案することが可能になるんです」

例えば、硝酸塩やリンの濃度が高くなることを事前に警告できれば、自治体を汚染水路から守ることができます。デジタル・ツインは処理場のオペレーターに問題を警告するだけでなく、原因が潜んでいる可能性が最も高いのは処理場のどの部分なのかを特定し、修理時間を短縮させます。こうした事前警告や素早い対応によって、事業者がペナルティを回避したり、コミュニティのためによりきれいな水路を確保することも可能になります。

デジタル・ツイン・テクノロジーには他にも素晴らしいメリットがあります。このテクノロジーを活用することによって、オペレーターは下水処理システムの細菌の健康状態をモニタリングしたり、適切なメンテナンス時期を割り出せるほか、地域の人口増減に応じて将来的な処理場の拡張・縮小コストまで見積もることができるようになります。

いま、ニコルズのような数百人のGEの科学者が、ジェットエンジンや風力発電所、油田などの海底噴出防止装置用のデジタル・ツインを構築しています。GEは自社製のあらゆる機器装置のデジタル・ツイン・モデルを構築して、機器をより効率的に機能させ、予定外のダウンタイムにかかるお客さまのコストを削減したいと考えています。たとえば、デジタル・ツインから得たデータで正しく機器の機構や部品のヘルスチェックができれば、通常は24~36カ月ごとに実施している航空機エンジンのオーバーホールも、「この健康状態なら、38カ月経った時点でOK」と判断できるかもしれません。

下水処理場がニコルズのアイデアを採用するまでに、あとどれくらいの時間がかかるでしょう?彼はこのテクノロジーを最初に適用する共同開発パートナーにふさわしい施設を探し求めて、最近、水道事業者や処理場のオペレーターにプレゼンをしたり、ディスカッションを重ねています。「処理場のデータがオペレーション効率向上にどのように役立つのかを実証できれば、活用が進むはずと考えています」とニコルズは抱負を語っています。