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Predixで”ものづくり”の無駄をなくせー宇宙の原子数を超える作業パターンをシミュレーション

ヂャク・ヲゥドゥ氏はフランス南東部で大型金属加工の工場を経営しています。決してソフトウェアに精通しているタイプではありません。それゆえ、GEのデジタル・ファウンドリー(産業データを解析するソフトウェアの開発や、デジタル技術活用のための斬新なアイデアを生み出すためのGEデジタルの施設。在パリ)からデータ・サイエンティストとソフトウェア開発者らから成るチームが会いに来たとき、彼らが使う技術的な専門用語を理解するのに四苦八苦しました。その逆に、ヲゥドゥ氏が機械の使い方を説明しようとしたときには、GEデジタルのチームの方が苦労することになりました。しかし今となってみれば「この時のGEデジタルとの話し合いが過去数年のなかで最も実りある話し合いだった」と同氏は言います。昔ながらの製造業とデジタル・・・まったく異なる世界に身を置く両者が集結し、“ものづくり”のあり方を変えようとしたのです。

 

温泉があるフランスの美しい町、エクス=レ=バンにある同氏の工場では、送電網を流れる高電圧電気を変換するための「ガス絶縁変電所」と呼ばれる施設向けに、部品を製造しています。工場のタスクのひとつに、世界中の変電所で利用されているアルミニウムパイプの切断や組立てがあります。パイプのサイズは、全長9mと11mの2種類。年間合計にすると実に20km相当ものパイプを製造しています。

 

ヲゥドゥ氏が抱えていた課題は、数学的な問題でした。パイプを切断する少人数のチームは、注文をこなすために毎月平均で約600本、つまり毎週150本のパイプを切り分けなければいけません。しかしここ数年、パイプの約10%は最終的にムダにしてしまっていたのです。作業ミスによるものではありません。材料を余らせずに、規格サイズのパイプを正確に切り出すための計算が難題だったのです。別の仕事に例えるならば、部屋に床板を敷き詰めるのに必要な枚数を正確に算出し、材料をムダなく使い切る最良の断裁法を探すような時。こうしたケースでも、同様の問題に直面するでしょう。余ったパイプ片は“くず鉄“として売ることもできますが、価格は卸値の30%さえも満たしません。

 

ヲゥドゥ氏によると「以前の作業工程はすべて手動だった」ため、パイプを切り分けられる本数、サイズ、その日のうちに必要な数量などを、個々の作業員が少なくとも1時間かけて計算し、切断手順を最適化していたとか。同氏は「30年このやり方でやってきたし、改善も試みてきましたよ」と言います。

 

「工場経営者というのは常に生産性向上に努める必要があります。
そして、今回のように、すぐに結果を出せるツールを導入したいんです。
鍵は“デジタル”という自分たちにはない専門知識を作業工程に取り入れたことでした」

――ヂャク・ヲゥドゥ氏
最上部画像:GEデジタルのチームは、毎月600本のパイプを切り分ける方法は、
宇宙に存在する原子の数よりも多くパターンがある

(つまり、およそ4×1079通りもの可能性がある)ことを突き止めた
(画像ともに:GEデジタル)

 

2016年後半、「デジタル・ファウンドリー」ではソフトウェアで製造業の生産性向上を図れるかどうかを検証するためのパイロット・プロジェクトが進められていました。担当チームは、その一環でヲゥドゥ氏にコンタクトしました。ファウンドリーのゼネラル・マネージャーを務めるビンセント・シャンペインは、今年1月、4人のデジタル・エンジニアを伴ってパリを出発し、問題解決のための大がかりなプランを用意して工場を訪ねました。しかし、製造業とソフトウェアという2つの世界が互いに意思疎通するのは大変なことでした。「私のチームのスタッフ達は、彼らに向かって『こんなんじゃダメだ』って言ったんです」とヲゥドゥ氏は振り返ります。

 

理解が得られたのは、両チームが一緒にヘルメットと安全ゴーグルを装着し、作業員がアルミニウムパイプを切断・溶接する工場の作業現場へ移動してからでした。デジタル・チームの中には、製造現場に実際に足を踏み入れるのは初だという者もいました。ファウンドリーでアプリ開発のプロジェクトマネージャーを務めるイーゴリ・ドニエストロウスキーは「とにかくすごかった」と言います。「実際の現場や生産工程、作業に専念する姿を目の当たりにした瞬間でした。コンセプトが本物のデジタル・インダストリアル・アプリケーションになったのはこの時です」

 

たとえば、パイプがどれほど重くて、それが山積みにされた中から取り出し製造現場の別の場所へ移動させるのがどれほどに大変かということを自分の目で確かめられたことは、パイプ切断工程の改善のためのソフトウェア設計に着手するうえで役立ちました。

 

最も効率的なやり方は実行可能な解決策をまずすべて試してみることでしょう。しかし、それはどんなコンピューターであれ膨大な時間と処理能力を求められます。シャンペインのチームは、月に600本のパイプを切り分ける方法は、宇宙に存在する原子数よりも多い(つまり、およそ4×1079通りもの可能性がある)ということを突き止めました。

 

 

ここ数年の問題は、切断したパイプの約10%は最終的にスクラップ対象になっていたことだった
(GIF:GEデジタル)

 

クラウドコンピューティングとGEの産業向けデジタル・プラットフォーム「Predix」は、そのすべてのパターンをシミュレーションして検討することができました。工場を視察したあと、GEデジタルのメンバー達はパリのオフィスに戻り、わずか4週間たらずで、パイプをどこからどのように切断すれば、エクス=レ=バンの工場効率を最大化できるのかを描出できるアプリを開発しました。

 

今では、その日に切断するパイプの要件をアプリにアップロードすれば「Predixがたった数秒で結果をはじき出してくれる」とヲゥドゥ氏。特筆すべきは、このアプリがスクラップ対象を10%から4%に減らし、今年一年だけでも推定20万ドル(約2,200万円)ものコスト削減を叶えてくれる可能性があることです。

 

このアプリは今後、同工場の他のタスクについてもムダを減らせるよう、発展させる予定です。GEのデジタル・ファウンドリーの開発者たちはいま、仕上がったパイプを出荷用木箱に最も効率的に詰める方法を提案するアルゴリズムを研究しています。ドニエストロウスキーは「アプリをアップグレードするには1カ月ほどかかる」と話していますが、ヲゥドゥ氏はパイプを切り分けるこのアルゴリズムによって、年間コストを2倍、もしかしたら3倍削減することもできるのではないかと見込んでいます。

 

同氏は次のように説明しています。「工場経営者というのは常に生産性向上に努める必要があります。そして、今回のように、すぐに結果を出せるツールを導入したいんです。鍵は“デジタル”という自分たちにはない専門知識を作業工程に取り入れたことでした」