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メットガラを新たな次元に導くザック・ポーゼンの3Dプリントクチュール


英国のスーパーモデル、ジャーダン・ダンがメットガラで赤いカーペットに歩み入ると、観衆は興奮に包まれました。ダンはバラの形をした血のように真っ赤なガウンをまとっていたのです。このドレスはラッカ―塗装された、できたての固いキャンデーのように見えました。つやのある花びらがスポットライトを受けて輝き、複雑なひだ状の層やベルベットのような渦巻き型を見せ、生き生きと咲き誇る花を表現していました。

しかしこのガウンは、絹で飾ったありきたりの高級ファッション作品ではありません。ザック・ポーゼンがデザインしたドレスは、チタン製ケージ内に納められた21枚のプラスチック製の花びらを含み、すべて3Dプリントによって製作されたものです。GEアディティブの製造提携企業であるProtolabsが花びらをプリントし、GEアディティブがチタン製ケージを製作しました。ドレスのデザインと3Dプリントに250時間(花びら1枚当たり3日)、花びらの砂磨きと光沢赤色自動塗装による塗装に400時間を要しました。「この花びらはフェラーリを彷彿とさせます」とProtolabsのアプリケーション・エンジニアのエリック・アトレーは述べています。「スーパーカーのパネルのような外観と手触りです」

ファッションイノベーションの最高峰であるメットガラは毎年開催され、メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートの資金源となっています。この施設には世界中から集められた、15世紀以後の年代の33,000点以上の衣類と装飾品が収められています。セレブやスター、若きデザイナーと業界の著名人が参加するガラは、ニューヨークで屈指のファッションイベントです。長年にわたって世界一流のデザイナーたちは、LEDで輝くドレス(これもザック・ポーゼンの作品)、光ファイバーを織り込んだ布地、リサイクルされたプラスチックで紡いだガウン、ロボットの輝く外観に似せるための金属製衣裳などを世に出してきました。

ジャーダン・ダンがメットガラで身に着けた完全3Dプリントのバラ型ガウンは、
21枚のプラスチック製の花びらとそれらを収めるチタン製ケージで構成されている。
トップ画像提供:パトリック・フレーザー 上の画像提供:GEアディティブ


今週ポーゼンが発表した新たなコレクションは、3Dプリントを重工業(GEとProtolabsはこの技術をジェットエンジンやガスタービン、医療用スキャナーの部品の製造のために使用している)から魅惑的な服飾の世界に導くものでした。彼のバラ型ガウンは手始めにすぎません。女優ニーナ・ドブレフは、透明でガラスのようなビスチェドレスをまといました。これは自然にできたひだを持つ、流れるように体をおおう布地に似ていますが、実は3Dプリントによる見せかけの効果で、プラスチック製のものです。ケイティ・ホームズは紫の光沢のあるコーティングで輝くヤシの葉型のアクセサリーを肩に垂らしていました。ジュリア・ガーナーはつるの形からヒントを得たベリーと葉をあしらった髪飾りを着けました。これはナイロンにプリントしてから、真鍮製の箔を施したものです。ボリウッドスターであるディーピカ・パドゥコーネのガウンは、銀色の触手を持つ3Dプリントされた何十個もの「うに」で煌いていました。またポーゼンは自身と、男優アンドリュー・ガーフィルドや美術商ヴイト・シュナーベルを含む同席の男性たちのために、小さなバラの形をしたカフスボタンをデザインし、3Dプリントしました。

自らのデザインを実現するため、ポーゼンは6か月近くにわたってGEアディティブのデザイン・エンジニア、およびプラスチック・金属製のアディティブ・プロトタイプを専門とするProtolabsと協働しました。Protolabsは衣類の大部分をノースカロライナ州の工場で、ニーナ・ドブレフのビスチェはドイツのフェルトキルヒェンにある工場でプリントしました。GEアディティブはバラ型ガウンのためのチタン製ケージをシンシナティのアディティブ・テクノロジー・センターでプリントしました。

女優ニーナ・ドブレフは、透明でガラスのようなビスチェドレスをまとっていた。これは自然にできたひだを持つ、
流れるように体をおおう布地に似ていましたが、実は3Dプリントによる見せかけの効果で、プラスチック製。
画像提供:パトリック・フレーザー


ポーゼンが実現しようとしたビジョンは、時間を止めて凍結した自然の物体でした。彼は、ニューヨークのチームと花のブーケ、工芸店の品々、マネキンに着せかけた布地などの多くの素材からインスピレーションを得ました。彼らはGEのアディティブ・エンジニアにそれらの物体を見せ、時には大まかなスケッチを描きました。バラ型ガウンの場合、ポーゼンはガウンの望ましい形を得るために、紙製の花びらをマネキンにピン留めし、そこからエンジニアらがコンピュータ支援設計(CAD)を用いて、ポーゼンのアイデアを実現したのです。求められる美観を把握し、デザインが3Dプリントによって効果的なものになるよう、彼らはポーゼンと密接に協力しました。

「ザックのチームと協力する中で、『ファッションデザイナー』用語を学ぶことが最大の難問でした」と、GEアディティブ傘下のコンサルティング会社であるAddWorksのデザイン・エンジニアのサラ・ワトソンは述べています。「彼らは3Dモデリングに不慣れで、通常の場合はデザイン過程で自ら手を下して仕事する部分が大きいのです」 普通、ポーゼンは布地をマネキンの上に垂らすことからデザインを始めます。しかし今回ワトソンと彼女のチームは、最初の垂らされた布、インスピレーションを与える物体と画像にもとづいて、デジタルモデルとして生成しました。モデルはフィードバックを得るためにポーゼンおよび彼のチームと共有されましたが、それはしばしばFaceTimeを使って行われました。「彼らは何度も『もっと動きとエネルギーが必要だ!』といったようなことを私たちに言いました」と彼女は笑いながら述べています。「私たちは、これをいかにCADで生成するかを学ばなければなりませんでした」

ポーゼンが最終的なCADデザインを許可した後、小型化されたモデル作りから始まるプリント過程を始める前に、Protolabsからデザインに関する助言を行いました。

GEアディティブとProtolabsは、使うプラスチックの分量(バラの花弁を紙一枚分薄くすることで、1ポンドもの違いが生じた)と、それぞれの作品に最適な光ポリマーの種類を選ばなければなりませんでした。たとえば、ビスチェ(Somos Watershed XC 11122ポリマーで製作)は完全に透明である必要がありましたが、他の作品(Accura Xtreme White 200、Accura 60とAccura 5530プラスチック、およびProtolabsが所有権を持つマイクロファイン緑色樹脂とナイロンで製作)は形を保つため、より硬い材料でプリントするか、衝撃に対する耐久力のある材料でプリントする必要がありました。

ボリウッドスターであるディーピカ・パドゥコーネのガウンは、銀色の触手を持つ3Dプリントされた何十もの「うに」で煌いた。
画像提供:パトリック・フレーザー


特に面倒だったのは、試着してもらうことができないのに、特定の人のためにあつらえたドレスを製作しなければならないことでした。硬いプラスチック製で柔軟性が少ない作品をいかにモデルのボディサイズにフィットさせるかを、エンジニアは考えなければなりませんでした。これを行うために、彼らは写真測量法を用いてモデルのサイズを把握しました。これは、デザイナーが人の周りを歩きながら写真を撮り、それを3Dで再現するという方法です。「モデルの一人は、『ガラの前に5ポンド(2キロ)痩せようと思っているの』とふと口にしました。そのために私たちは、いくらか適応性を持たせなければなりませんでした!」とワトソンは述べています。またポーゼンがとても活動的なデザイナーであるということをチームは知っていたので、硬い材料でプリントを行うという制約の下で、彼が自分で調整できるように彼らは最終作品に最大の適応性を持たせるようにしました。

アトレーによれば、歴史的に見てファッションにおける3Dプリントは実験的なもので、SFに倣って技術を誇示する方向に傾いています。「これはザックの気まぐれなデザイン言語には合いませんでした。それはターミネーターよりはシンデレラに近いものなんです」と彼は述べています。

産業畑で働いてきたワトソンのチームにとって、これは最初の難問でした。「これらの有機的な形は、熱交換機や燃料ノズルとは非常に異なるモデリング技術とCADツールを必要とします。3Dプリントの利点は、デザイナーがこれほど複雑な各部分でも、速く効率的に制作できることです」と彼女は述べています。

ポーゼンと彼のチームは、まずプラスチックと金属で従来の織物デザインを再現することに集中しました。ワトソンと彼女のチームが3Dモデルを作成しているなかで、3Dプリントが提供可能な様々なデザイン面での自由度の高さを利用するために、これまで以上の複雑さを与える方法を提案し始めました。デザインの多くは、体から流れていくような、織物では不可能な特徴的形態を持っています。「複雑さの限界に挑んでいるうちに、私たち全員が、このコレクションが彼のクラシックで優雅なデザイン美学の中にとどまりながらも、ザックブランドにとって本当に新しく画期的なものになるかもしれないということを悟るようになりました」とワトソンは述べています。

ジュリア・ガーナーはつるの形からヒントを得たベリーと葉をあしらった髪飾りを着けた。
これはナイロンにプリントしてから、真鍮製の箔を施したもの。
画像提供:パトリック・フレーザー


彼女によれば、その結果は彫刻のように見える作品です。複雑に重なり合った、輝くバラの花びらをポーゼンが初めて見た時の恍惚とした表情を「奇跡を目の当たりにした人を見ているようでした」とワトソンは述べています。

コンセプトの選定、3Dモデルの作成と全作品の製作・組み上げにわずか数か月という日程は過酷でしたが、とても良い機会だったとワトソンは述べています。「これは本当に骨の折れるデザイン経験でした。けれども私たちは最終的に、これらの作品の中に自然のエネルギーと躍動感を取り込むというザックのビジョンを満たすことに成功しました。織物ではとてもそんなことはできません」

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